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「100人いたら100通り」性自認の"グレーゾーン"を繊細に描き出す漫画『となりのとらんす少女ちゃん』

SNSでトランスジェンダーが登場する漫画を発表してきた「とら少さん」の作品が、初の書籍化。トランスジェンダーたちの日常の機微、セクシュアリティの葛藤を丁寧に描いている。自身もトランスジェンダーである作者と編集者に、書籍への思いを聞いた。

「これは、いつかきっとすれ違った、わたしたちのとなりに生きる『とらんすちゃん』たちの物語」

トランスジェンダーたちの日常の機微を、繊細かつ大胆に描いた漫画が在野社から発売されている。

作者は、SNSでトランスジェンダーが登場する作品を発表してきたとら少さん。ネットで反響を呼んだ「退廃的なとらんすちゃん」「弟はとらんすちゃん」「未来から来たとらんすちゃん」3作品に加え、書き下ろし「似つかわしいとらんすちゃん」も収録されている。

「性の多様性」にまつわる議論は、結局「男」か「女」の二元論に陥りがち。

トランスジェンダーだって「女になりたい男」か「男になりたい女」かのシンプルなカテゴリに分類できるわけではない。自分のセクシュアリティに気づき、理解し、受け入れ、腑(ふ)に落ちるまで、それぞれの道のりがある。

そして、腑に落ちない場合も、たくさんある。

「女の子になりたかったというのには かなり違和感がある」

「退廃的なとらんすちゃん」では、大学生の相川が、同級生・園木からの好意に気づきながらも、自分がトランス女性であることを打ち明けられずにいる。

「自分は園木をどう思っているのだろう?」……そう相川が考えてたどり着いた答えは「園木は私がなりたかった/なれなかった存在」だということ。

男として生を受けるが、男のまま生きることに違和感を覚える。かといって、「女になりたい」気持ちをすんなり受け入れられるわけではない。願わくば、そんな気持ちを抱かずに「まぎれもない男の子」でいたかった。

「割り当てられた身体的な性別と、自分の認識する性別(性自認)が異なる」という説明だけでは片付けられない、トランスジェンダーのリアルな葛藤を、自身も当事者であるとら少さんが丁寧に描いている。

「ぼく 女の子なんかじゃぜんぜんないです」

「弟はとらんすちゃん」で、主人公りょうとは"弟"あゆむを"オカマ"と認識している。

アイドルが大好きで明るいあゆむは、家でも学校でも、自分のセクシュアリティを自由に表現しているように見えた。母親の理解もあり、あゆむは何の障壁もなく「女の子」として過ごしていると思えたが……。

りょうとの同級生・美羽に「妹」と言われ、「女の子なんかじゃぜんぜんない」という言葉があゆむの口をつく。

このセリフについて、編集担当の浅野さんは「当事者じゃないと描けない」と語る。浅野さんもトランスジェンダーだ。

「とても大切な描写です。性自認というものの実態を描けている」

「ありのままって………なに?」

「『自分は女だ』『自分は男だ』と思うだけで、性自認はどうとでもなる……とよく言われますが、そんなに単純ではありません」

「『性自認』という言葉に、『自分で決められるもの』というイメージがありますよね。ですが、自分で自分の性別を認識するプロセスの中には、他人からの眼差しや認識も深く関わってきます」

「あゆむは兄に"弟"だと思われているから、強く『自分は女の子です』と言えない。それが分かる大切なシーンです」

一方、とら少さんにとって思い入れがあるのは、「似つかわしいとらんすちゃん」。

「コイツにはおおいに失敗して赤っ恥かいてもらうんだ」

主人公の高校生・ショウタは、人気者の優等生で、学級委員を務めている。一方でもう1人の学級委員・ヨシくんは少しズレていておっちょこちょい。なぜかヨシくんが鼻につくショウタだが、その背景には、「男」の役割を期待されるがゆえに無視してきた心の葛藤があった——。

とら少さんは「トランス漫画として描かれるストーリーから、最も駆け離れた作品を描こうとした」と明かす。

「私はトランスジェンダー」と思える時点で、セクシュアリティを受け入れるプロセスは「ほぼ9割がた終わっている」と、とら少さん。

「あとは性別移行だったり、カミングアウトだったり、技術的な面でやることはあるけれど、そこに至るまでの葛藤、紆余曲折、自己受容が、トランスジェンダーには難しい部分なんです」

「似つかわしいとらんすちゃん」は、自分のセクシュアリティに向き合う「小さな小さな始めの1歩」をテーマにしている。

「ぼくはヨシくんに嫉妬していた」

そんな本作に、「トランスジェンダーとは」という説明書きは一切含まれていない。

専門家による解説や用語の説明を入れなかったのは、とら少さんと浅野さんの強い意向だった。

「ジェンダーに関する話ではありますが、作品が持っている繊細さが失われてしまうため、切々と説明しきらないほうが良いと思いました」と浅野さん。「その代わり、表現の力で描き切ろうと決めました」

とら少さんは、「『性同一性障害』『心は男』みたいな単語を説明として作中に入れるのも、私はNGでした」と制作過程を振り返る。

「それはキャラクター本人が思うことだから。もちろん『心は男』だと思っているキャラクターがいてもいいのですが、自分をそう表現しないキャラクターだっています」

「自分を表現する言葉って、100人いたら100通りある。(性的マイノリティに限らず)シスジェンダーの人にとってもそうですよね」

『となりのとらんす少女ちゃん』は、来年秋に実写映画化予定。クラウドファンディングで製作費を募っている。

#となりのとらんす少女ちゃん』映画化プロジェクト&製作支援クラファン、今夜始動!

映画『#片袖の魚』の東海林毅監督が同名コミック収録の「未来から来た自分に女になるよう説得される話」を原作としたトランスジェンダー… pic.twitter.com/5M0jKvaA6Y

— 映画『となりのとらんす少女ちゃん』クラファン実施中🏳️‍⚧️ (@TonaTora_Movie) May 13, 2025
Twitter: @TonaTora_Movie
開始2週間で目標額を達成し、現在はストレッチゴールに挑戦中。プロジェクト支援の詳細はこちらから!

▶︎『となりのとらんす少女ちゃん』試し読み

サムネイル:©︎とら少/在野社 2025

My Kind of Pride(私なりのプライド): 誰かじゃない、わたしの話